このコラムの元となったYouTube動画です。あわせてご覧ください。
気づけば、このシリーズも20回を超えていました。今回で26回目です。長く続けてきたものだと、あらためて感じます。
これまでアブシンベル神殿については、比較的オーソドックスに歴史を語る回が中心でした。今回は少し違うアプローチで、「見る時間」と「見る場所」を変えるだけで、同じ神殿がまったく違う顔を見せてくれるという話をしようと思います。同じ旅で、昼は湖の上から、夜はライトアップの中で、早朝には一年に二度しか見られない特別な瞬間として——一度の訪問で三度、違うアブシンベルを見てきました。
昼、湖の上からのぞむ神殿
最初にお見せしたいのは、いつもとは立ち位置が違う景色です。私が立っていたのは、ナセル湖をせき止めるダムの上でした。
アブシンベル神殿は、もともと今より低い位置に建っていましたが、アスワン・ハイダムの建設によってできたナセル湖に水没する危機に見舞われ、1960年代に現在の高台へ丸ごと移築されたという歴史があります。そのダムの上から船に乗せてもらい、神殿の周りをぐるっと回って眺める——これが今回初めての経験でした。
普段は正面から眺めるだけで、裏側にまわって神殿を見るような機会はまずありません。実際、逆向きに神殿を見た記憶がないくらい、珍しい構図でした。風があって多少揺れ、少し気持ち悪くなる場面もありましたが、それも込みで新鮮な体験でした。遠くから、静かに、いつもと違う距離感で神殿を眺める——なかなかできない贅沢な見方だったと思います。船自体もしっかりした造りで、そこは安心でした。
神殿の中は、相変わらずラムセス2世の物語で埋め尽くされています。入口には敵を打ち倒すファラオの姿、内部には戦いの場面か、神々と向き合う場面か——基本的にその二択です。すぐそばの小神殿では、王妃ネフェルタリに捧げられた、ハトホル女神の美しい浮彫も見ることができました。
壁のあちこちには、後世の人が住んでいた痕跡らしきものも残っていました。古代の神殿や建造物は、たいてい誰かに「再利用」されているものです。何千年も崩れずに残ってきたわけですから、住居として見ればこれ以上頑丈な物件はないでしょう。信頼感という意味では、申し分ありません。
夜、光と音の中に浮かぶ神殿
アブシンベルには、もう一つの顔があります。夜、ライトアップされた姿です。
これも実は初めてでした。パンフレットでよく見る、美しくライトアップされた神殿は、旅行でなければまず見る機会がありません。仕事でエジプトに来ていたら、この時間はもう食事をしているか、次の目的地へ移動しているか、休んでいるはずです。観光客だけに許された時間、という感じがしました。
夜は「光と音のショー」が開催されていて、これは別料金です。だからか、夜の来場者は昼間に比べると少ないようでした。ルクソールなど、他の遺跡でも似たようなショーをやっているところがあります。
内容は、ラムセス2世の生涯や戦いの場面を、神殿そのものを舞台にして映像で映し出すというもので、かなり本格的でした。ディズニーのアトラクションを思わせるクオリティです。気温は、東京の春の夜くらい。10度を切ることはなく、ダウンを着ている人もいましたが、厳しい寒さではありませんでした。
各国から観光客が集まっていて、日本人のツアーも私たち以外にいました。あとで知ったのですが、夏に講演を頼まれている博物館関係者の方と、たまたまほぼ同じ時期にエジプトへ来ていたことが分かり、少し運命的なものを感じました。
早朝、一年に二度だけ光が届く瞬間
三度目に訪れたのは早朝です。目的はただ一つ、「太陽が神殿の奥まで届く日」を見ることでした。
アブシンベル大神殿は、年に二度、2月22日と10月22日の前後にだけ、朝日が神殿の奥深くまで一直線に差し込み、内部の像を照らすように設計されています。この日の前後には、朝早くから人が集まってきます。私たちは5時ごろに着きましたが、1時半から並んでいた人もいたそうです。
問題は、神殿内の照明でした。電気がついていると太陽光の効果がまったく見えないのですが、なかなか消してもらえず、各国の言葉で「電気を消してくれ」という声があちこちから飛んでいました。最終的に係の人が来て消してくれましたが、ちょうど出勤してきたタイミングだったのかもしれません。
電気が消えると、光が奥まで届いていく様子がはっきり見えました。振り返ると、逆側には入口からの光が広がっている——テレビや本でよく見る、あの構図そのものです。これを自分の目で見るのは、今回が初めてでした。
観光目的でなければ、まずここまで来ないと思います。普通の出張や調査でこの時間にここへ来ることはまずありません。混雑ぶりもすごく、ツアーの人たちも一番前に並ぼうと必死でした。もう一つ印象的だったのは、みんながスマートフォンで写真を撮っていたことです。少し前まではデジカメが主流だったはずで、時代の変化をふと感じる場面でした。
外に出て見た朝日も、絵葉書のように綺麗でした。
次はまた来年
最後に少し余談を。私は紫外線に弱いので、正直エジプトの太陽はあまり得意ではありません。「夜だけ動く」か「スカーフで全身覆ってミイラのようになる」くらいしか、対策が思いつかないのが悩みです。
また来年、おそらく3月ごろに行くことになりそうです。今回同行した花さんにはぜひ夏に来てもらいたいところですが、本人曰く「情勢とお金次第」とのこと。どこかから支援が飛んでくることを、密かに期待しています。
今回はアブシンベル神殿の「いろいろな顔」をお届けしましたが、余裕があれば、ぜひ実際に足を運んでみてください。アブシンベルだけでなく、ルクソール神殿、カルナック神殿、そしてピラミッドも、それぞれに違う魅力があります。
それでは、また次の機会にお会いしましょう。