今回はエジプト・サッカラにあるセラペウムを紹介します。サッカラは最初のピラミッドであるジェセル王の階段ピラミッドで有名な聖域で、いまも発掘のニュースが絶えない場所ですが、その一角の地下に、この不思議な墓所が広がっています。
聖牛アピスが眠る地下墓所
セラペウムは、ミイラにされた聖牛アピスのために造られた地下のお墓です。新王国時代からプトレマイオス朝まで、じつに1000年近くにわたって使われ続けました。地下の通路の両側に部屋が並び、そこに巨大な石の棺がひとつずつ据えられています。大きなものは80トンを超える花崗岩の棺で、あまりの巨大さに「人間が作ったものではないのでは」と言われることもありますが、人間が作ったのだと私は断言しておきます。
私が大学生の頃は崩落の危険があるとして非公開でしたが、その後きちんと整備され、いまは見学できるようになりました。壁のあちこちに四角い窪みが残っているのは、奉納された石碑がはめ込まれていた跡です。残念ながらそのほとんどは持ち去られてしまいました。
王の化身とされた牛
アピスはメンフィスの主神プタハの化身であり、同時に王の化身ともされた特別な牛です。1人の王に対して1頭のアピスが存在するとされ、亡くなると国中から次のアピスが探されました。歴史の父ヘロドトスは、アピスの特徴として、額に白い印があること、舌の下にスカラベの印があること、尾の毛が二股に分かれていることなどを書き残しています。そんな牛がそう簡単に見つかるとは思えませんが、だからこそ神の化身として大切にされたのでしょう。
セラペウムという名前は、プトレマイオス朝に生まれた新しい神セラピス(死者の神オシリスとアピスが習合した神)に由来します。セラピス信仰はギリシア・ローマ世界で大流行し、遠くイギリスにまで神殿が造られました。サッカラを訪れる機会があれば、階段ピラミッドだけでなく、ぜひこの地下の巨大石棺群まで足を延ばしてみてください。詳しくは動画でご覧ください。