今回はシリアの砂漠に栄えた隊商都市パルミラ、その中心にあったベル神殿の話です。私にとっては特別な場所です。25歳の頃から発掘調査に参加し、何シーズンも通って、若い時代を過ごした遺跡だからです。
神殿の境内で暮らした日々
ベル神殿は紀元後32年に建てられた、パルミラの中心的な神殿です。じつは私たち調査隊の宿舎は、この神殿の境内の中にありました。夕方5時に門が閉まると、広大な神殿はほぼ貸切状態。列柱の間を散歩し、石の上に寝転んで星空を眺める。研究者として、これ以上ないぜいたくな環境でした。パルミラでは20世紀の初め頃まで神殿の中に人が住んでいて、遺跡整備の際に住民を移住させた歴史があります。壁のあちこちに生活の痕跡が残っているのも、この遺跡の面白いところでした。
私が担当したのは、神殿から少し離れた地下墓(ネクロポリス)の調査です。世界各国の調査隊が集まる場所で、フランス隊やポーランド隊の研究者と交流できたことは大きな刺激になりました。パルミラでの学会に参加するためイギリスへ渡ったことが、後に留学を決意するきっかけにもなりました。
失われた神殿へ
ご存じのとおり、ベル神殿は2015年に爆破され、あの美しい姿は失われてしまいました。ここで写っている写真は2004〜2005年頃のもの。せっかく修復され、これから観光も研究もますます盛んになるはずだった場所でした。知り合いも多かった土地だけに、いまも心が痛みます。オアシスの緑、いまは枯れてしまったローマ時代から続く温泉、名物の羊肉。あの風景をいつかまた見られる日が来ることを願っています。平和になれば、ぜひみんなで訪れましょう。詳しくは動画でご覧ください。
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